朝鮮半島の未来戦争とその後の議論を抑制する国家保安法【Media Today】2022,7,18
【国家保安法連載(07)】国家保安法で深刻に汚染されたマスコミ、政界
朝鮮半島で戦争が起こることを想定するのは、気分が良い事ではない。朝鮮戦争の惨劇を思い浮かべると尚更だ。しかし、戦争を防ぐためには、戦争が起きることがどれほど悲劇的かを十分に把握することも重要だ。ところが、朝鮮半島の戦争悲劇に対する展望とその防止策についての議論は、韓国では活発ではない。
その理由の一つは、南北と外国勢力などが複雑に絡み合う可能性が高く、北韓も戦争当事者の一つになるという点で、国家保安法を意識しなければならないからだ。国家保安法の趣旨によると、未来の戦争で北韓は悪役としてのみ想定されなければならないが、このような点が、未来の朝鮮半島戦争に対する多様な想像や議論を躊躇させることになる。
万が一、朝鮮半島で戦争のような惨劇が発生すれば、それは米国や中国ではなく朝鮮半島が最も大きな被害を受けることになる。南北軍事対峙の特性上、全面戦争発生時に首都圏で、短時間内に少なくとも数十万人から数百万人が死亡するという調査結果が出ている。1ヶ月程度長期化すれば1千万人水準の人命被害が避けられないという恐ろしい推定もある。
国家保安法は、韓国の勝利、北韓の壊滅という目標だけを想定し、そのような結果をもたらす戦争のみ考えることを強要している。そのため、国家保安法称賛論者たちはよく、韓国主導による統一、北進統一を主に主張する。それだけではない。北韓の急変事態や北韓崩壊を想像しながらシナリオを展開する。それでは、北韓の急変事態や崩壊時に、国家保安法の信奉者たちが主張するように統一が来るのだろうか。朴槿恵・元大統領が一時叫んだ“統一大当たり”が可能なのか。
結論から言えば、とんでもない話だ。外国勢力が虎視眈々と朝鮮半島に介入して利益を分け合う欲に満ちているからだ。まず、米国は朝鮮戦争の際の中国の参戦という痛い経験を生かし、米軍が未来の朝鮮半島戦争で北進する場合でも、平壌の北の清川江(チョンチョンガン)まで進撃するという戦略を以前から構想してきた。
米国は、1950年代後半から北韓に対する核攻撃を前提にした軍事訓練を実施し、最近も北韓の核施設に対する先制攻撃、北韓首脳部を暗殺するやり方で、北韓の政権交代を試みるという発想を隠さない。しかし、この場合、中国を意識しているのは勿論だ。韓米両国が北韓に対する先制打撃を合理化させて国際社会の世論悪化を防止するため、侵略ではなく自衛権による‘内陸進撃’訓練というふうな我田引水式の戦争論理を開発したが、相手も似たような論理で対抗することは明らかだ。
日本は、安倍・元首相が銃撃によって死亡した後、改憲作業に拍車をかけて「戦争が可能な国家」として浮上するという動きが強まっているが、現行憲法の下でも朝鮮半島有事の際、自衛隊を派兵する多様な案を確保して努力中だった。日本は、日米安保協定によって朝鮮半島で日米合同作戦を展開できるのは勿論、戦時に韓国軍の作戦指揮権を行使する駐韓米軍司令官の要請によっても、日米合同作戦が可能だということを熟知している。
日本は、独島領有権を主張することは、日本の未来世代に朝鮮半島戦争の可能性を教育させる意味であり、それによって再侵攻の機会を狙っていると知られているが、朝鮮半島の類似状況に対する対比を見れば、更にずる賢い。日本は朝鮮半島有事の際、韓国に居住する日本人と共に、北韓の日本人拉致被害者を救出するための軍事作戦を試みる案を推進していると、【産経新聞】が2017年4月13日付で報じた。
米国と中国、朝鮮半島有事の際、4ヵ国の分割統治シナリオを作成
朝鮮半島周辺の外国勢力は、朝鮮半島有事の際、各国の利害関係を貫徹させるために、朝鮮半島の危機事態に介入する名分を築いていることに注目しなければならない。ウクライナとロシア戦争の場合からも分かるように、米国と欧州のNATO国家は、ウクライナが経験する悲劇を契機に西欧陣営の結束を固め、軍事、経済的利益を得ようと試みた。しかし、大国は第3の地帯で利益争奪戦を繰り広げながらも、最悪の状況は回避しようという取引をしたりもする。
例えば、米国は台湾問題を巡って中国と軍事的衝突も辞さないような態度を取るが、“米中外交トップらが会って、両国の競争をするものの、それを管理する疎通チャンネルを維持し、競争がややもすると誤判断と対決に突き進まないよう安全装置を作る案を論議しよう”と、中国に提案したこともある(【米国の声】放送2022年7月7日)。
大国は、大国間の葛藤と対立は、それぞれ各自の利益を最大限得る線まで競争するものの、戦争のような最悪の状況を防ごうという‘ホットライン’を維持しようという思惑だ。 しかし、弱小国を舞台に利益争奪戦を繰り広げることで、大国間の利己主義が働いていると見なければならない。20世紀初め、米国と日本が朝鮮半島、フィリピンを巡って植民地駆け引きをしたのがそのような事例の一つだ。
米国と中国は、朝鮮半島有事を想定して論議したという報道が出たこともある。米国政府が2009年、北韓の体制崩壊時に4ヶ国分割統治シナリオを設定したことが知らされた後、中国も2015年に類似した方案を米国側に提案した事実が、原発反対グループのハッキング文書を通じて明らかになって衝撃を与えていると、【チャンネルA】と【TV朝鮮】が2015年の10月9日に報道した。
この文献によると、中国とロシアが北韓地域の北部地域を、韓国と米国は南部地域を分割占領することになっており、北韓崩壊が朝鮮半島再統一どころか強国の角逐の場に変わる可能性を示唆している。これは、外国勢力が北韓地域を‘餅のかけらを分け合いながらお腹を満たす’という意味だ。
北韓地域の4カ国分割統治方案は、統一された朝鮮半島が大国として登場し、それによって北東アジアに地殻変動を起こして、外国勢力を不便にするという点が前提となった構想だといえる。外国勢力は、朝鮮半島の統一状況を防止することが、すべての外国勢力の利益に合致するということに暗黙的に同意してきたし、今後もその可能性が高い。これは漢民族が決して受け入れられない、外国勢力の鉄面皮な駆け引きであり野合だ。
国際社会は冷酷だ。大国の力による外交、すなわち力が正義という野蛮な外交が日常化している。このような点に照らして、北韓の急変事態などが分断される以前の状態で統一に繋がるという、国家保安法に基づく情けない構想は、本当に民族の未来を台無しにし、東北アジアの平和に逆行する妄想に過ぎない。外国勢力は韓国のこのような骨貧状態を利用して、妙手探しに血眼になっている。
大国が未来の朝鮮半島戦争で利益を得る可能性について、国内政界やマスコミ、専門家などは無関心だ。その問題に対して遠い他国のことのように接するだけだ。北韓が消えさえすれば、どんな犠牲でも甘受しなければならないということか。このような乱暴な考え方が支配するのは、国家保安法のせいだ。この法律は、外国勢力の介入可能性に対する客観的分析とそれに対する対備策の講究を不可能にする。
国家保安法が朝鮮半島の未来を台無しにしているのだ。米国など大国の立場で国家保安法がとてもありがたいものと言える。この法律は、米国が北韓を除去するために何をしても、韓国の熱い支持を受けられるようにするためだ。米国は国家保安法の陰で、米国の国益を得るための、上限のない朝鮮半島戦略を推進している。
米国のオバマ政権時代の対北韓政策である「戦略的忍耐」は、実は北韓が自ら崩れる時を待つ戦略だった。バイデン政権も北韓に対する封鎖と圧迫を強化しながら、「北韓が先に平和的ジェスチャーを取れば交渉する」というやり方だ。これは、北韓に対して先に跪けば対話するというもので、自尊心を大きく強調する北韓の立場を考慮すると、米朝間で平和的対話が成立し難いという点が明らかになる。
米国はウクライナ-ロシア戦争、中国との対峙を優先し、朝鮮半島問題は改善の兆しを見せていない。尹錫烈大統領も李明博、朴槿恵政権と似た対北韓強硬策を掲げ、軍備増強の方針を強調している。北韓もミサイル開発に続き、核実験の実施を予告している状況だ。このため、朝鮮半島の近未来は軍事力の対峙による緊張水位が高まる可能性が大きく、南北間の疎通や緊張緩和は期待し難くなった。
戦争に対する国際規範があるとしても予防が最善
人類の歴史は戦争の歴史という言葉があるように、戦争は日常史の一つのようになっている。そうだとしても、人類は戦争による被害を最小化するために努力もしてきた。ところが、ウクライナ-ロシア戦争の如く平和を仲裁する勢力が現れないように、いったん戦争が発生すれば、その後はとても不幸だ。
戦争はよく侵略戦争と正義の戦争に区分される。戦争は、侵略戦争は絶対にいけないし、正義の戦争は避けられないと認識される。二つの戦争は一見大きな違いがあるように感じられる。しかし、現実的に二つの戦争を見分けるのは非常に難しい。交戦当事国の主張が食い違うのが常で、実際の調査によってその真偽を明らかにすることも難しい。
このような理由から、今日、侵略戦争を定義した国際法は存在しない。国際連合憲章にも侵略に対する定義規定がなく、国際連合は総会と安全保障理事会を通して侵略行為の存在有無を多数決の方法で決めることになる。
侵略か否かは、個別国家の主観によって判断されるしかない。このため、国際社会では戦争の性格に対する規定で、決定権の行使などの力の論理が優先されるようになる。また、勝戦国は正義の戦争をしたことになり、敗戦国はあらゆる汚名を着せられるのだ。休戦する場合は双方の主張が対立する局面が持続するのが常だ。
このような限界の中でも、国際社会は正当な戦争だとしても無制限の武力使用や残虐行為を規制する国際法である戦時国際法(law of war)または戦争法を発効させ、戦争の開始条件、武力手段、攻撃目標物などをそれぞれ制限している。この法律は、戦争による不必要な被害を最小化することを目標とする国際的装置であり、次のような事項を規制する。
-最小限の期間と費用内に最小限の人命被害で敵を降伏させることを原則としながら、軍事作戦は交戦者だけを相手にし、軍事的目的を達成するために必要な以上の戦闘力は使用できない。戦闘力使用の被害が過度だと判断されれば、戦時国際法によって処刑されうる。-
ジュネーブ協約は、戦争を止めるよりは武力衝突からもたらされる野蛮行為を抑制することに焦点が当てられており、陸上と海上戦闘での軍隊負傷者、遭難者、捕虜、戦時民間人保護などを規定している。
国連は憲章によって、全世界の国連加盟国が自衛権行使ではない場合に武力使用を行えば、国際法的な国連憲章と戦争法違反だと規定した。国連憲章の第2条3項は、「すべての加盟国は、国際紛争を国際平和と安全、そして正義を危うくしない方式で平和的手段によって解決しなければならない」となっている。同じく4項は、「すべての加盟国は、国際関係に於ける他国の領土保全や政治的独立に対して、または国連の目的と両立しないどの様な方法であれ、武力の脅威や武力行使を慎まなければならない」となっている。
但し、国連憲章第42条は、国連安保理の武力使用承認による戦争、第51条による自衛権による戦争は正当な戦争として国際法上認めている。それ以外の戦争は侵略犯罪となって国際法違反であり、これに対する国家責任以外にローマ規定によって個人まで戦犯として刑事処罰される。
大統領、対北強硬発言より戦争予防、平和維持方案を提示すべきだ
世界の戦争史を見れば、軍事的対立が深刻化した状況なら、偶発的な衝突が全面戦争に飛び火するケースが少なくない。韓半島の場合もこのような点に留意して、戦争のような極端な手段は国民が最終決定権を行使するようにしなければならない。軍が国家の最高主人公であるかのように設置するのは良くない。軍の最高総帥権者が大統領だということは、武力を手段とする軍は国家の一部に過ぎないという点を強調したのだ。
大統領は、安保の責任を負う軍が本来の役割を果たすようにしながら、同時に戦争ではなく平和的な方法で問題を解決する政治力を常に発揮しなければならない。尹錫烈大統領が、国民の安心のためだとしても、北韓鮮に対して先制打撃のような戦争を連想するような発言をするのは控えた方が良い。
まず、外国資本や投資家などから見て、韓半島を不安地域と誤解する可能性もあり、北韓を刺激して南北間の緊張状態を助長させる結果をもたらしかねない。従って、戦闘や戦争については軍高官が言及し、大統領は避けられない衝突や戦争を防ぎ、平和を維持できる案を言及するような役割分担が望ましい。更に、韓半島での不幸な未来を防止するために、経済力10位圏、軍事力6位圏の国力にふさわしい、自主権行使による韓半島での平和定着、世界平和寄与方案が何なのかを考えなければならない。国家保安法はできるだけ早いうちに改廃に乗り出さなければならない。
韓半島有事の際に、周辺の外国勢力が胸の内の欲を満たそうとする戦略を樹立している可能性を想定する、韓半島の平和統一だけが皆を幸せにする唯一の解答だ。外国勢力が韓半島分断で不当利益を得てきたし、未来もそのような欲を捨てないという点を確認するとき、韓民族は勿論、東北アジアの平和と安全に寄与する最上の方案は韓半島の平和統一だ。
このために、南北が政治・軍事的に対立する状況を短期間で打開できないとしても、政経分離の原則に基づいた多方面の交流協力を強化し、南北経済共同体の推進を模索しなければならない。そして「6・15共同宣言」、2018年の2度の南北首脳会談などで合意されたことを実践に移し、緩い連邦制統一方案などのための努力を集中しなければならないと思われる。(コ・スンウ:言論社会学博士)■
原文URL → http://www.mediatoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=304990