「わが国の米軍」はセクシュアリティ、階級、経済地域に投影されてきた
[インタビュー] <同盟の風景>著者:エリザベス・ショーバー、オスロ大学教授
【PRESSian】2023年5月20日
『私たちは米国を知らなかった。米軍が仁川港に到着した1945年9月8日、日本の警察は米軍を歓迎しに来た朝鮮人2人を銃殺し、200人余りの負傷者が出た。歓迎の人波は散り、米軍は日本の保護の中で登場した』(チョン・ヒヂン解題:グローバル資本主義時代の駐韓米軍と韓国社会)
<同盟の風景:駐韓米軍がもたらした波紋と亀裂に対する鳥瞰図>(エリザベス・ショバー著、チョン・ヒヂン企画、監修,解題、カン・ギョンア訳)は、駐韓米軍の存在を通じて見た韓米関係、これが実際韓国社会にどのように投影されてきたのか、「国際政治」がどのように「個人」に影響を及ぼすのかを分析する本だ。
米軍が韓国社会で、国家という違いだけでなく、セクシュアリティ、階級、経済、地域などの変数が作動する方式と相まって、どのように存在し解釈されてきたのかに注目する。
『私たちが売春婦で、羊公主(ヤンゴンジュ、訳注:売春婦に対する蔑称)で、娼婦だと言っていました。』(外国人パーティーに行ってスキャンダルに巻き込まれた韓国人女性)
『米軍は私たちを自分たちのような本物の男ではないと思っています』((KATUSA、訳注:米軍に配属される韓国軍人)を終えた大学生チュファン)
『地下鉄で誰も私の隣に座りたがらない時、どんな感じか分かりますか?』(駐韓米軍パウロ)
この本を書いたオスロ大学のエリザベス・ショバー教授は【PRESSian】とのインタビューで、韓国社会で駐韓米軍が認識される方式が、米国の植民地だったが、独立して同盟関係を結んで米軍が駐留するようになったフィリピンとは差があると説明した。
『私がしばらく居住していたスービック湾や米海軍基地があった地域では、米軍駐留に対する郷愁を感じる人が多いが、これは韓国ではほとんど見られない姿だ。このような郷愁は富の不平等と関連がある。言わば米軍駐留時は「金が回った」と感じるのだ。フィリピンは外国人の直接投資と海外労働者の送金に大きく依存する新生産業国であるため、米国に対する依存度が高くならざるを得ないが、フィリピンより経済的に富強な韓国でこれはすでに過ぎ去った問題だろう。』
しかし、米国の植民地だったフィリピンも、米軍犯罪に対する反発世論によって、1991年に上院でフィリピン内の米軍基地賃貸延長が拒否され、スービック湾など主要な米軍基地が撤収したが、韓国からの米軍撤収は分断という現実の前では言葉も出せないテーマだ。
その上、ロシアのウクライナ侵攻で国際情勢が急変すると、韓国とフィリピンは平等とは見られない米国との「同盟」を強化する流れを同じく見せている。米国の立場から見れば、中国とロシアが第2次世界大戦以後続いた米国中心の一極体制に本格的に反発した状況を抑えるためには、既存の「同盟」を動員することが必要なためだ。この過程に積極的に呼応している尹錫悦政権は、「日本の保護の中で登場した米軍」を1945年に韓国が受け入れたように、2023年には日本との劇的な関係改善を図った。
駐韓米軍が韓国社会を組織するのにどのような影響を及ぼしてきたのかをミクロ史的に調べる<同盟の風景>は、「価値外交」を掲げて「急速に進んでいる」尹錫悦政権が逃している地点が何かを示してくれている。ショーバー教授は、駐韓米軍の動向を追跡する作業が有意義な理由を、「軍事主義解体」の可能性と必要性から探した。
『残念ながら、歴史を通じて学ぶべきことがあるとすれば、帝国の黎明が常にとても平和な時期ではないという点だ。世界が多極化する中、ロシアのウクライナ侵攻に見られる民族主義、ショービニズム、有害な民族中心主義が蔓延するだろう。このような現象を防ぐためには、時間がかかっても軍事主義を構成し、再び解体できる社会的過程として理解することに力を入れなければならない』
以下はショーバー教授と行った書面インタビューの主な内容だ。
尹錫烈政権発足後、大幅に強化された韓米同盟、高まる緊張感
【PRESSian】:駐韓米軍の意味は、韓国現代史において決定的であり核心的でもある。韓国語版の序文で“明白な超大国である米国が韓国で徐々に影響力を失っていく過程を追跡した”と明らかにした。しかし、最近になって中国との競争、ウクライナ戦争などを契機に米国の軍事的利害関係において韓国の役割は更に重要となっており、同盟を根拠に圧迫している。保守政権の尹錫悦大統領が、ウクライナに武器支援の可能性を言及してロシアが反発するなど、大きな物議が起きている。こういう流れについてどう思う?
【ショーバー】:わずか数ヶ月前に<同盟の風景>序文を書きながら話したことを超える多くの変化があった。尹錫悦大統領の米国歴訪を通じて韓米同盟は大幅に強化されたようだ。フィリピンもまた5月1日、フェルディナンド・マルコスJr.大統領がホワイトハウスを訪問し、長い間、時には動揺したりした米国とのパートナーシップを再確認した。米国がこのような関係を公式化し、中国、ロシア、北朝鮮との緊張も高まっている。私は個人的に韓国が近い隣国と友好的な関係を続けてほしい。現在、欧州はロシアの恐ろしいウクライナ侵攻によって新しい冷戦時代に早く突入しており、欧州とロシアの関係がいつ完全に崩れるかは誰にも分からない状態だ。
【PRESSian】:この本は、駐韓米軍という存在が軍事主義、帝国主義、家父長制、資本主義などが複合的に作用し、韓国社会にどのような影響を及ぼしたのかを扱っている。このような側面で、韓国がアジアの他の国で米軍が駐留したり駐屯していた日本、フィリピンなどと最も大きな違いは何だと思うか?
【ショーバー】:ここ数年フィリピンで現場研究をしてきたので、ここではフィリピンとの違いを論じる。フィリピンは1898年から数十年間は米国の植民地だったが、独立した後、1947年に軍事基地協定(MBA、Military Bases Agreement)を締結し、米国と同盟関係を結んだ。ところが1991年、フィリピン上院でこの協定を更新しないことを決めた。これは韓国との決定的な違いだろう。
ところが、1999年以降にフィリピンは米国と数回新しい協定を締結するが、これには米国が別途の施設を用意せずにフィリピンの施設を利用できるという内容が含まれている。そのように米国は、今日までもフィリピンに多大な影響力を行使している。私がしばらく居住していたスービック湾や米海軍基地があった地域では、米軍駐留に対する郷愁を感じる人が多いが、これは韓国ではほとんど見られない姿だ。
このような郷愁は富の不平等と関連がある。いわば米軍駐留時は「金が回った」と感じるのだ。フィリピンは外国人の直接投資と海外労働者の送金に大きく依存する新生産業国だ。そのため米国に対する依存度が高くならざるを得ないが、フィリピンより経済的に富強な韓国でこれはすでに過ぎ去った問題だろう。
【PRESSian】:1992年の尹今伊(ユン・グミ)事件(訳注:米軍兵士による猟奇的殺人事件)は、韓国社会に大きな衝撃を与えた。本でも指摘したように、この事件が知られる過程で、これまで“羊公主”という蔑称に耐えなければならなかった基地村の女性たちは“民族の娘”に昇格化された。しかし、尹今伊氏が“民族の娘”と呼ばれるためには、あまりにも酷く傷付けられた遺体が全国民の前に展示されなければならなかった。「フェミニズム」は「左派民族主義」とかみ合って作動し難いように見える。これについてどう思うか?
【ショーバー】:社会運動陣営で暴力の被害者をどのように扱うべきかという問題は、かなり鋭敏で困った事案だ。ソーシャルメディアが溢れる今日では、恐ろしい殺人事件を被害者の尊厳に反する方式で扱うのが極めて容易になった。
例えば、2015年にフィリピンのスービック湾でトランスジェンダー女性のジェニファー・ロードが米軍の海兵隊によって殺害された。左派運動家たちは殺人犯の有罪判決を引き出すキャンペーンを行い、彼女の惨たらしい遺体の写真を公開した。このような方法でなければ、関心を持たない多くの人々の反応を引き出せなかったからだろう。民族主義運動では左右を問わずフェミニズム議題と食い違う修辞と戦術をしばしば使う。私は左派ナショナリズムとフェミニズムが両立できないとは思わない。ただ、両者の戦術の中で何を受け入れるかという問題は、結局その運動に足を踏み入れたより大きな規模の連帯者の歩みに掛かっているだろう。
ジェンダー化した韓米関係と米軍基地村「慰安婦」
【PRESSian】:韓国女性が帝国主義軍隊によって性搾取を経験した歴史は米軍だけではない。先立って日本軍慰安婦問題があり、これもまだ解決されていない。植民地当時、非自発的に連れて行かれた日本軍慰安婦の被害者たちも、この問題を初めて公論化したのが1990年代初めだ。これには韓国の家父長制が強力に作動した。米軍基地村の慰安婦に対する国家暴力を初めて認めた判決も、2022年になって可能だった。「植民地」男性は自身の抑圧される男性性を補償されるために自国の女性をさらに抑圧し統制しようとしているという気がすることもある。これについてどう思うか?
【ショーバー】:全世界各地の人類学研究を見ると、地域でのジェンダー抑圧は植民主義の歴史と非常に密接に相互作用する傾向がある。その点で、そのような問題提起は非常に妥当だ。今回の本では「慰安婦」問題を短く言及したが、私は「慰安婦」たちが長い間沈黙せざるを得なかった歴史が、私が本で論じたジェンダー化された韓米関係問題とつながっていると見る。これと共に、実際に基地村の女性問題のような話が、なぜあれほど注目されなかったのか質問することも重要だ。
私は本書でこの質問に答えるため、特定の国際的圧力に対する歴史的対応として、韓国に幅広く広がっている軍事主義に主に焦点を当てた。勿論、このような軍事主義は非常にジェンダー化されたイデオロギーだ。言い換えれば、軍事主義は男性が地元の女性よりも権力を握る方法を明確に示している。
【PRESSian】:米国は依然として韓国に駐留しているが、大衆の関心からはある程度消えたような雰囲気だ。このような変化が龍山基地移転による物理的空間の移動のためか、それとも韓国の速い経済成長による変化したアイデンティティのためか?
【ショーバー】:「目から遠ざかると心からも遠ざかる」という諺があるではないか。龍山基地移転が相当な影響を及ぼしただろう。
これは、私が最近進めている、港が都市生活に及ぼす影響についての研究とも一脈相通じる。世界中のほとんどの軍事基地と同様に、港も都心からますます遠ざかっている。それで港で起きる色々な活動、騒音、公害なども人々の関心からさらに遠ざかっている。船員たちもやはり過去には主要な労働階級に挙げられたが、今は大部分が人里離れた港に留まっているだけだ。
勿論、港町に数日間滞在する船員とは違って、米軍は韓国に長く滞在する。彼らは休暇の時、たびたびソウル市内に出て楽しんだりもする。ただ、私が会った多くの軍人は、外出する時、軍人としてのアイデンティティに注目するよりは、観光客や英語教師など他の外国人と付き合おうとした。
【PRESSian】:後続研究を含め、本で言えなかったことがあれば?韓国の読者に特に伝えたい言葉は?
【ショーバー】:「同盟の風景」の基盤となった研究を始めてからかなり経ったが、韓国の読者にこの本を興味深く読んでもらいたい。その後、私は他のテーマと国家(フィリピン、ドイツ)に対する研究を進めた。しかし、私が知る限り、韓国は社会的に非常にダイナミックな場所の一つであるため、依然として多くの関心を持っている。
前述したように、私は現在港町と海洋産業問題を研究しているが、海洋産業は伝統的に男性が主導してきた経済分野であり、韓国もやはりかなり核心的な役割を果たしてきた。最近はスカンジナビアの造船所で活用されたクレーンの話にはまっている。1974年、スウェーデンのマルメのコクムス造船所に、当時としては世界で最も大きなクレーンが設置された。それだけ造船業が活況だったが、都市のランドマークだったこのクレーンは1997年に最後に使われ、現代重工業にたった1ドルで売却された。このクレーンが解体され蔚山に向かう光景を見ながら、マルメ市民たちは涙を流した。長い間生死苦楽を共にしてきたクレーンの最後を目撃した彼らの反応だっただろう。造船所は閉鎖され、マルメは産業都市から知識都市へと変貌した。しかし、旧造船所の跡地でその歴史を振り返り、これに関する公演を行う彼らにソン・ミンジ先生と一緒にインタビューしている。現在、欧州で造船業はその地位を失い、消費財の90%近くを東アジアで作った船舶に依存して運んでいる。■(チョンホン・キヘ記者)
原文出典 → https://www.pressian.com/pages/articles/2023051517351066487?utm_source=daum&utm_medium=search